医療費控除とは
その年の1月1日から12月31日までの間、申告する方やその方と生計を一にする配偶者その他の親族のために支払った医療費がある場合は、その支払った医療費が一定額を超えるときは、医療費控除(所得控除)として所得金額から差し引くことにより、所得税と住民税を減額することができます。
(所得税法第73条・地方税法第34条第2項・地方税法第314条の2第2項)
医療費控除は「医療費控除」と「医療費控除の特例(セルフメディケーション税制)」の2種類あり、申告者がどちらかを選択するこことができます。(申告後変更できません)。
医療費控除
申告する方やその方と生計を一にする配偶者その他の親族のために支払った医療費が10万円もしくは総所得金額等の5%のいずれか低い金額を超える分(最大200万円)について、医療費控除(所得控除)を受けることができます。
「総所得金額等×5%」が10万円以上となるのは、総所得金額等が200万円以上の場合に限られることから、以下のような計算となります。
総所得金額等 | 医療費控除の計算 |
200万円未満 | 支払った医療費総額−保険料などで補填される金額−総所得金額等の5% |
200万円以上 | 支払った医療費総額−保険法などで補填される金額−10万円 |
例:申告する方(70歳)やその方と生計を一にする配偶者その他の親族のために支払った医療費が20万円(補填される金額は5万円)で、申告する方(70歳)の収入が公的年金300万円(他に所得なし)の場合
総所得金額等:300万円−110万円(注記1)=190万円 ※総所得金額等は200万円以下
医療費控除額:20万円−5万円−(190万円×5%)=55,000円
(注記1)年齢が65歳以上で公的年金が330万円未満の場合の控除額は、一律110万円となります。
医療費控除の特例(セルフメディケーション税制)
健康の保持増進及び疾病の予防への取組(健康診断・予防接種・がん検診など)を受けている人が、申告する方やその方と生計を一にする配偶者その他の親族のために支払った市販薬(スイッチOTC薬)を購入したときに、12,000円を超える分(最大88,000円)について医療費控除(所得控除)を受けることができます。
医療費控除の特例は、2017年1月から5年間の特例として始まりましたが、2022年1月より5年間延長されることになりました。
対象となる人
申告する方やその方と生計を一にする配偶者その他の親族とは以下とおりです。
- 納税者である『本人』
- 納税者「生計を同じくする」配偶者
- 納税者と「生計を同じくする」※親族
※6親等以内の姻族・3親等以内の血族
必ずしも同一の家屋に住んでいることをいうものではなく、別居でも常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合には「生計を一にする」に該当します。
(所得税法基本通達2−47)
対象となる医療費
医療費控除の対象となる医療費は以下のとおりであり、その病状などに応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額とされています。
(所得税法施行令第207条・所得税法施行規則第40条の3第2項・所得税法基本通達73−3・昭62.12.24直所3−12・平12.6課所4−9、4−11・平13.7.3課個2−14・平14.6.25課個2−13・平15.12.26課個2−27、2−31)
No | 内容 | 根拠 |
1 | 医師または歯科医師による診療または治療の対価 | 所得税法施行令第207条第1項 |
2 | 治療または療養に必要な医薬品の購入の対価 | 所得税法施行令第207条第2項 |
3 | 病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院、指定介護療養型医療施設、指定介護老人福祉施設、指定地域密着型介護老人福祉施設または助産所へ収容されるための人的役務の提供の対価 | 所得税法施行令第207条第3項 |
4 | あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師による施術の対価 | 所得税法施行令第207条第4頁 |
5 | 保健師、看護師、准看護師または特に依頼した人による療養上の世話の対価 | 所得税法施行令第207条第5項 |
6 | 助産師による分べんの介助の対価 | 所得税法施行令第207条6項 |
7 | 介護福祉士等による一定の喀痰吸引および経管栄養の対価 | 所得税法施行令第207条第7項 |
8 | 介護保険等制度で提供された一定の施設・居宅サービスの自己負担額 | 平12.6課所4−9、4−11 |
9 | 次のような費用で、医師等による診療、治療、施術または分べんの介助を受けるために直接必要なもの | − |
9−1 | 医師等による診療等を受けるための通院費、医師等の送迎費、入院の際の部屋代や食事代の費用、コルセットなどの医療用器具等の購入代やその賃借料で通常必要なもの | 所得税法基本通達73−3(1) |
9−2 | 医師等による診療や治療を受けるために直接必要な、義手、義足、松葉杖、補聴器、義歯、眼鏡などの購入費用 | 所得税法基本通達73−3(2) |
9−3 | 身体障害者福祉法、知的障害者福祉法などの規定により都道府県や市町村に納付する費用のうち、医師等の診療等の費用に相当するものや上記(1)・(2)の費用に相当するもの | 所得税法基本通達73−3(3) |
9−4 | 傷病によりおおむね6か月以上寝たきりで医師の治療を受けている場合に、おむつを使う必要があると認められるときのおむつ代 | 昭62.12.24直所3−12 平13.7.3課個2−14 平14.6.25課個2−13 |
10 | 日本骨髄バンクに支払う骨髄移植のあっせんに係る患者負担金 | 平15.12.26課個2−27 |
11 | 日本臓器移植ネットワークに支払う臓器移植のあっせんに係る患者負担金 | 平15.12.26課個2−31 |
12 | 高齢者の医療の確保に関する法律に規定する特定保健指導 | 所得税法施行規則第4 0条の3第2項 |
医療費控除が適用される税目
医療費控除が適用される税目は所得税と住民税になります。
医療費控除といえば、「所得税の確定申告すると還付される」という印象をお持ちの方が多いと思いますが、必ずしも医療費控除を申告することで還付を受けられるというわけではなく、国税である「所得税」のほか、地方税である「住民税」でも適用されることはあまり知られていません。
その点について説明していきます。
所得税と医療費控除
日頃、給与収入や公的年金から毎月差し引かれる(源泉徴収されている)所得税は、「事前に徴収される税金」であり、あらかじめ差し引いて納付されます。
「事前に徴収される所得税」の算出に含まれていない「医療費控除」を追加して所得税を計算する場合、確定申告を作成することとなります。
なお、自営業や不動産所得がある方、2カ所以上給与収入がある方など、源泉徴収で所得税の課税関係が終結しない場合は、翌年の3月15日までに確定申告しなければなりません。
医療費控除の申告により、還付を受けられるのは以下の場合です。
- 確定申告により計算された所得税 < 事前に源泉徴収された所得税
以下の場合、還付を受けることができません。
- 事前に源泉徴収された所得税がない(0円)
- 確定申告により計算された所得税 > 事前に源泉徴収された所得税
なお、医療費控除により減額される所得税は、「医療費控除額」×「所得税率5%〜45%」となります。
例えば、年間の医療費が12万円で医療費控除が2万円(12万円−10万円)で所得税10%の場合は、年額2,000円が減額(還付)となります。
住民税と医療費控除
日頃、給与収入や公的年金から毎月差し引かれる(特別徴収されている)住民税は、所得税と異なり、市区町村により賦課決定された「確定した税金」です。(公的年金の仮徴収を除きます)
住民税は事前に徴収された税額と精算する所得税と異なり、翌年に請求される後払い制となります。
つまり、医療費控除の申告をすることにより、医療費控除を反映した住民税がのちに請求されることとなるので、過年度の住民税申告で医療費控除を申告する場合などを除き、所得税のように還付されることはありません。
住民税で医療費控除を申告する場合、市区町村に住民税申告書を提出することになりますが、税務署に所得税の確定申告した場合、国税庁を通じて市区町村に送付されるため、申告した内容は住民税に引き継がれます。(確定申告で医療費控除を申告すると、住民税でも医療費控除が適用されます)
なお、医療費控除により減額される住民税は、「医療費控除額」×「住民税率10%(一律)」となります。
例えば、年間の医療費が12万円で医療費控除が2万円(12万円−10万円)の場合は、年額2,000円が減額(還付)となります。
年金受給者の確定申告申告不要制度
公的年金等については、「雑所得」として課税の対象となっており、一定金額以上を受給するときには所得税が源泉徴収されているので、確定申告を行って所得税の過不足を精算する必要があります。
しかし、年金受給者の申告手続の負担を減らすため、平成23年分の所得税から「確定申告不要制度」が創設され、以下のいずれの要件を満たす場合、所得税の確定申告書の提出が不要になりました。
- 公的年金等の収入金額の合計額が400万円以下
- 公的年金等に係る雑所得以外の所得(給与所得・公的年金以外の雑所得・配当所得・一時所得など)の合計額が20万円以下
なお、この場合であっても「事前に徴収されている所得税」(源泉徴収税額)があり、医療費控除や雑損控除などによる所得税の還付を受ける場合には、従来どおり確定申告書の提出が必要です。
言い換えれば、「事前に徴収されている所得税」(源泉徴収税額)がない方 は、確定申告しても一切、還付を受けることができません。
また、上記の要件を満たし確定申告不要制度に該当した場合であっても、公的年金等に係る雑所得以外の所得(例:少額の不動産所得など)がある場合は、市区町村に住民税の申告をする必要があります。
なお、年金所得者については、市区町村に年金支払者(日本年金機構等)から公的年金等支払報告書が提出されていることから、市区町村は公的年金にかかる住民税を計算することは可能ですが、上記の要件を満たし確定申告不要制度に該当する場合でも、医療費控除などの控除の適用、訂正、追加がある場合には、住民税の申告することで、のちに請求される住民税が減額される場合があります。(確定申告や住民税申告がない場合は、公的年金等支払報告書の内容で住民税が計算されます)
まとめ
医療費控除は医療費そのものが戻ってくるのではなく、確定申告もしくは住民税申告により、所得税は還付、住民税はのちに賦課決定される税額の減額を受けることができます。
医療費控除の申告に必要な書面等については触れていませんが、制度の概要と関連する税目など基本的な仕組みを知ることにより、節税につなげることができます。
少しでもお役に立ってていただければ幸いです。
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